以前入院されていた患者さんのお話です。
こんにちは、救命センター看護師の濱浦です。
今回は以前入院されていた患者さんのお話をさせていただきます。
転落事故によって入院された患者Aさん。
転落時の記憶は無く、当院に搬送されたところで意識がはっきりしてきたそうです。
しかし、頚髄損傷という診断。その日のうちに長時間に及ぶ手術をし、救命センターに入室したのは真夜中のことでした。
口からは人工呼吸器が繋がれた管が入り、様々な状態をモニタリングするためのコードや種々の薬剤を投与するための点滴チューブ、その他カテーテル類が繋がれた状態でした。
麻酔が切れ、少し意識が鮮明になってきてからも、口から入っている管のせいで声が出せません。
そういった場合、文字盤というツールを使って訴えを聞きます。
しかし、頚髄損傷によって腕は思うように持ち上がらない、指差しも出来ない、といった状態でした。
想像してみてください。体に訳の分からないコードが繋がれ、痛みや痒みなど様々な不快感や苦痛を周りの人たちに伝えられない状況。かなり辛かったことでしょう。
医療現場では医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ…と様々な専門スタッフが協力して患者さんをフォローさせていただいています。
私は患者さんが文字盤で苦痛が訴えられないかリハビリスタッフに相談しました。すぐに補助具を作ってくださり、それを使って訴えを伝えられるようになりました。
数日後には特注のスマホスタンドとタッチペンも完成し、離れたご家族とLINEでのビデオ通話が出来るようにもなりました。
その後、痰詰まりや気管切開(喉に切開を入れ空気の通り道を作る)など、苦難が絶えない日々を送る中、ついに救命センターから病棟への移動が決定しました。
当日はお会い出来なかったので、後日病棟に会いに行くと、「やっほー」と声を出し、両手を振って迎えてくれました。初めて声を聞けて泣きそうになりました。
その後も、日々のリハビリにも熱心に取り組み、両手は万歳が出来る程に改善しました。
地元の転院先も決まり、病棟スタッフ、救命センタースタッフ、リハビリスタッフと共にお見送りしました。「バイバーイ」と最後まで持ち前の明るさが光っていました。
救命センターは、超急性期の患者さんが辛い状態の時に入院する病棟です。
しかしながら、Aさんの苦難を乗り越える姿に私たち看護師もどれほど励まされたか分かりません。Aさん、ありがとうございました。
これからも患者さんそれぞれの苦痛や辛さに寄り添い、日々どのような看護が適切かを考え、看護にあたってまいります。