進化する脳梗塞の治療
先日の夜のことだ。
突然、救急隊からのホットラインがけたたましく鳴る。
70歳代男性Aさん。
左半身がまったく動かすことができず、しゃべっていることも何を話しているのかわからない。
最終未発症確認時刻は20:30とのこと。
脳卒中を強く疑う症状だ。
救急車が病院到着するまで、あと15分。
準備にとりかかる。
どうやら発症してから長くても2時間30分。
脳梗塞であれば、発症してから4時間30分以内であれば、血栓溶解剤が使用できる。
それ以上経過した場合には、脳出血などリスクが高くなり、使用できない。
まごまごしていると、あっという間に1時間や2時間は過ぎてしまう。
時間との勝負だ。
Aさんが到着して、すぐに点滴と採血。
その後、頭のCTを撮影。脳出血はない。脳梗塞の陰影もまだ出現していない。
診断は脳梗塞で間違いないだろう。
続いて、頭のMRI。CTと違い、MRIは時間がかかる。この間に、脳外科の当番医B先生をコール。
MRIでは脳梗塞と内頚動脈の血栓による閉塞がわかった。
到着した脳外科B先生、「うーん、これは血栓溶解剤では溶けないなあ・・・」
動脈につまっていた血栓は長く、このままではAさんの命すら危ない。
これにさかのぼること数か月、血栓溶解療法に続く治療として、血栓回収療法の準備が始まった。カテーテルを大腿のつけねの血管から挿入し、頭部の血管の血栓を、特殊なカテーテルを使用して、取り去るのだ。
最近注目されている治療方法である。
すでに、準備はできていた。
あとは、この治療方法に合致する症例が現れるのを待つだけであった。
第1例目は、不測の事態に備えて、人手のある日中におこないたい。これは医療関係者ならだれしもが考えることである。
B先生は、決断した。
「よし、血栓回収療法をおこなう!」
反対する者は、いなかった。
すぐにスタッフが集まり、血栓回収療法が始まった。
すべてが終了したのは、午前3時を過ぎていた。
Aさんの動かなかった左の手足は見事に動き出していた。
救命センター医師 山口征吾