現代のがん治療は、がんについての知識が飛躍的に増加したために、非常に複雑なものになっています。適切な治療を行うためには、がん専門医による確実な診断と治療が必要です。必要に応じて専門医どうしが連携して治療を行います。それぞれのがんで大まかな治療の指針が「ガイドライン」として公開されており、原則としてガイドラインに沿った治療が行われます。しかし、がん患者さんの背景(年齢や持病など)を考慮して、ガイドラインに沿った治療ができないこともあります。
がんの進行の程度は、がんの大きさや広がり、リンパ節や別の臓器への転移があるかどうかによって「病期(ステージ)」として分類します。それぞれのがんに日本の学会で主に使われている「癌取扱い規約」による病期分類と、国際的に使用されている分類の2種類があり、両方が使用されています。各種検査をもとに判定した病期、および全身状態を加味して治療方針を決定していきます。
腫瘍マーカーとは、体のどこかにがんが潜んでいると異常高値を示すことがある血液検査項目で、がんの種類に応じて多くの種類があります。がんの早期発見や治療後の再発の有無を調べるために測定します。高値ならば必ずがんが潜んでいるわけではなく(偽陽性)、逆に低値ならばがんが潜んでいないわけでもありません(偽陰性)ので、検査値の解釈には注意が必要です。
体の外から、プローブを押し当てて、臓器から反射した超音波を捉えて画像にして観察する検査です。肝・胆・膵がん、乳がん、婦人科がん、前立腺がんなどの診断に用いられます。超音波画像を見ながら針を刺して組織を採取し診断を確定することがあります。検査自体は痛みもなく患者さんに負担が少ないため、CT検査やMRI検査と比較して簡便で診察時にも行えます。しかし、体の深い部分を観察する際には、患者さんの体型や状態、部位によっては見えにくいことがあるため、さらに詳しい検査が必要となります。
X線を当てることで、体の内部全体を映し出すことができる検査であり、病変の状態や周辺へのがんの広がり、転移の有無を調べます。白血病を除くほぼ全てのがんの診断に用いられます。特に造影剤という薬を点滴することによって病変が認識しやすくなり、また病変と他の臓器や血管との位置関係を詳しく観察することが可能になります。なお、通常はヨード造影剤を用いるため、ヨードアレルギーのある人、喘息やアレルギー体質の人、腎機能が悪い人は副作用が起こる危険が高くなり、使用できないこともあります。
磁気を使って体の内部を映し出す検査です。CT検査と同じように、病変の状態や周辺へのがんの広がりを調べます。CT検査と違って放射線被曝がないという利点があります。CT検査とMRI検査はそれぞれ利点欠点があるので、お互い補うように検査を選択します。ガドリニウムという造影剤を用いて検査を行うこともあります。当院には3テスラ(通常は1.5テスラ)のMRI装置があり、より精度の高い検査が可能です。
レンズと光源が付いた細い管(内視鏡)を体の中に挿入し、のど、消化管(食道、胃、十二指腸や大腸)、気管、膀胱、子宮などの管腔臓器を体の中から観察する検査です。病変を直接観察し、がんの広がりや深さを推定します。病変の一部を採取し(生検)、顕微鏡検査(病理検査)でがんの診断を確定することができます。超音波内視鏡検査は超音波診断装置が先端についた内視鏡を口から入れて、胃や十二指腸の中から超音波を当てて画像を映し出します。がんの深さ・性状や周囲への広がりを詳細に観察できます。また周囲のリンパ節や臓器(胆嚢・胆管・膵臓など)の情報も得ることができます。超音波画像を見ながら内視鏡内から調べたい組織に向けて針を刺し細胞を採取する超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引細胞診を行うこともあります。
放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射して、その取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を一度にスクリーニングする検査です。原発巣の検索やリンパ節、離れた場所への遠隔転移の確認などに用いられます。CT検査やMRI検査では分からなかった遠隔転移が分かることがあります。当院には検査機器がないため、長岡日赤病院などでの検査を予約させていただきます。
がんに対する直接的な治療方法には、「外科手術」、「薬物治療(化学療法)」、「放射線治療」の3つがあります。病期や、がんの存在部位、全身状態などを総合的に判断し、これらのうちの1つ、また複数を選択して集学的に治療を行います。また、生活の質を高めるための緩和医療も重要です。
がんの進行が発生臓器の周囲にとどまり、切除によって完全に取り除くことが期待できる場合は手術を考慮します。がんの手術ができるかどうかは、他の治療と比べて治る可能性が高い(根治性)、手術による死亡や合併症の危険が低い(安全性)、手術による後遺症や生活の質の低下が少ない(機能性)、といった要素を総合的に判断して決定されます。根治手術の原則は「十分にがんから離れて切除すること」と「転移の可能性のある領域リンパ節を一括して切除すること」です。
診断時の検査で完全にがんを切除できないと判断される場合や手術後に再発した場合(切除不能・再発がん)の中心的な治療は薬物療法であり、生存期間の延長や症状を和らげたりする効果が期待されます。手術だけでは効果が不十分と考えられる場合にも、補助療法として手術の前後に薬物療法が行われます。近年では患者さんのがん細胞から抽出した遺伝子の解析を行い(がんゲノム検査)、がんの遺伝子の変異パターンに基づいて各個人に有効と考えられる薬剤を選択して投与する個別化医療(テーラーメイド・オーダーメイド医療)も日々進歩してきています。
抗がん剤の投与による治療を化学療法と言います。化学療法単独で治癒が期待できる白血病・悪性リンパ腫・胚細胞腫瘍などでは第一選択となります。ホルモンによって分裂増殖が調節されているがん(乳がんや前立腺がん)に対する内分泌療法も化学療法に含まれます。抗がん剤は活発に分裂増殖している細胞に作用するため、がん細胞だけでなく体内の正常な細胞にも影響を及ぼして副作用を起こします。化学療法は主作用(がん細胞に対する効果)と副作用のバランスを考えて行います。
がん細胞の増殖や転移に必要な物質(分子)の働きを阻害することで、がんの進行を抑える薬剤を分子標的薬といいます。がん細胞自体に作用する薬とがん細胞周囲の細胞(血管細胞や免疫細胞)に作用する薬があります。分子標的薬は単独あるいは抗がん剤と併用して使われます。
外敵や異物から体を守る免疫機構を利用してがん細胞を排除する治療です。がん細胞を直接攻撃する免疫細胞や免疫分子を投与する方法(受動免疫療法)と免疫反応を刺激する免疫細胞や免疫分子を投与して、がん細胞を間接的に攻撃する方法(能動免疫療法)があります。
局所的な治癒が期待できる、あるいは手術を避けたい場合、さらにはがんの進行を抑えるなどの目的で行われます。肺がん、食道がん、子宮頸がんなどでは、抗がん剤と組み合わせる化学放射線療法を行うことで治癒が期待できます。脳腫瘍術後や乳がんに対する乳房温存術後、あるいは手術後にがんの遺残が疑われる場合には放射線療法を追加することがあります。 当院の放射線治療装置(リニアック)は第三者機関による出力線量の評価を受けています。詳しくはこちらをご確認ください。
がん病変の浸潤に伴って様々な症状を引き起こします。その症状によっては患者さんの生活の質が著しく妨げられ、積極的ながん治療の継続が困難な場合も少なからずあります。したがって、症状を和らげ生活の質を維持するための緩和医療は、がん治療の初期から並行して行われることが重要です。
がんを完全に取り除くことができない(根治性がない)場合や手術に耐えられない(安全性がない)場合に、がんによる苦痛や症状を和らげ、生活の質を改善するために手術を行うことがあります。
生存期間の延長や症状を和らげたりする効果が期待できる場合は緩和的化学療法を行うことがあります。がんによる痛みに対し、WHO(世界保健機関)の推奨する治療法に従って薬物治療を行います。まず非麻薬性鎮痛薬から開始し、効果を見ながら麻薬性鎮痛薬を段階的に追加していきます。ステロイドなどの鎮痛補助薬を併用することもあります。また痛み以外の症状(呼吸困難・嘔気嘔吐・消化管閉塞など)に対しても薬物治療で対応します。
がんの骨転移や神経浸潤による疼痛を和らげる目的で緩和的放射線治療を行うことがあります。またがんによる血管や神経の圧迫症状の解除や子宮がん、膀胱がん、肺がん、消化管がんからの出血の抑制にも有効です。
がんによる気管・気管支、消化管・胆管、尿管の閉塞に伴う症状(呼吸困難、嚥下困難・消化管閉塞・黄疸、腎不全など)を緩和するために、閉塞を解除し管腔を確保する筒(ステント)を留置することがあります。
排液した胸腹水を人工透析の機械を用いて体外で濃縮し点滴として血管内に戻す胸水・腹水濾過濃縮再静注法や、局所麻酔下に胸腔内や腹腔内と鎖骨の下の太い静脈に一方向弁のついたチューブを留置して体内に埋め込むことで自然に胸腹水を排液させる迂回路(シャント)を造るデンバーシャントなどがあります。
膵がんによる上腹部痛、直腸がんや泌尿生殖器がんによる会陰部痛、骨転移による体動時痛などに対して通常の薬物治療が効かない場合に、直接神経を破壊する神経ブロックを考慮します。 神経ブロックの実施にあたっては、新潟大学医歯学総合病院と連携しています。詳しくは、主治医にご相談ください。
病状を詳しく把握し、わからないことは担当医や医療スタッフに何でも質問してください。
病態や治療法は各患者さんによってそれぞれ異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分にあった治療法であることを確認すること、そして診断や治療法を十分に納得した上で、治療を受けることをお勧めします。
当院では、担当医以外の医師の意見を聞く「セカンドオピニオン」の紹介も積極的にお勧めしています。診断や治療方針、その他の治療方法の確認などを他の病院の専門医に聞くことができます。聞いてみたいと思った場合は、担当医にお申し出いただければ、いつでも紹介状や検査データを準備させていただきます。セカンドオピニオンを聞くことは現在のがん治療において一般的なことですので、納得した治療法を選ぶために、気兼ねなく相談してください。
「AYA(あや)世代」とは、英語の「思春期と若年成人(Adolescent and Young Adult)の頭文字からつくられたことばで、一般的に10代後半から30代の人たちをさします。
AYA世代のがんには、治療以外にもさまざまな問題があります。周囲から孤立したように感じる悩み、学業や仕事を続けていけるかという不安、治療の費用は大丈夫か?といった経済的な問題があります。そんな時には、がん相談支援センターにご相談ください。あなたと一緒によりよい方法を考え、関係機関と連携して支援していきます。
さらに、将来結婚して、子どもをつくることができるのか?という心配もあることでしょう。
将来子どもを産み育てることを望む小児・AYA世代のがん患者さんたちが、希望をもってがん治療に取り組めるように、子どもを授かることができる可能性を温存するための妊孕性(にんようせい)温存療法という選択肢があります。この妊孕性温存療法は、当院では実施していないため、県内関係機関と連携しながら支援しています。
ゲノムとは、遺伝子をはじめとした遺伝情報の全体を意味します。
ゲノムは体をつくるための、いわば設計図のようなもので、一人一人違っています。がんはゲノムの異常で生じます。
一部のがんの治療では、がんの組織などを用いていくつかの遺伝子を調べ、遺伝子の変化に対応した薬がすでに標準治療として使われています。この個別のゲノム検査は、当院でも検査可能であり、日々診療の中で行われています。
これとは別に、がんの組織や血液などを使って多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」によって、一人一人のがんの遺伝子の変化や生まれ持った遺伝子の違い(遺伝子変異)を解析し、がんの性質を明らかにすることや、体質や病状に合わせた治療などを行うという方法があります。この「がん遺伝子パネル検査」は、誰でも受けられるわけではありません。一般的には、①標準治療がない固形がんの人、②がんの進行によりこれまでの標準治療では十分な効果を得られなくなった人が、新たな薬物療法を希望する場合に検討します。また、全身状態などの条件もあります。
当院ではこのがん遺伝子パネル検査は実施していませんが、県内で指定されているがんゲノム医療拠点病院(新潟大学医歯学総合病院)、がんゲノム医療連携病院(新潟県立がんセンター新潟病院、新潟市民病院、長岡赤十字病院)と連携し検査を受けていただいています。